「今夜はほぼ皆既月蝕」と聞いて、
時間を合わせ、歩きに出た。
夜空には
ごく薄いオーガンジーをなびかせたような雲が
緩やかな流れを描いている。
主役のお月様は、ほぼ皆既が終わるあたり。
雲のフィルター越しにやんごとなき姫のよう、
かそけき姿で浮かんでおられる。
少し歩いて、
荒川にかかる橋から水面を見下ろすと、
月の波光はかぼそくて、ぼんやりと気配があるだけ。
黒々した川岸、神社の屋根、鎮守の木々のシルエット、と
順に視線を上げていくと
空まで川が続いているようにみえた。
時間がたって、暗さを増した夜空の川で
三日月過ぎまで復した様子が私には
光に包まれて天の川を往く舟 に みえた。
・・・あの船に乗れたら、
どんな命も浄くなれるだろう。
・・・あんな綺麗なものが空に輝いているのに、
この上、何を作りたいんだろう・・・
満月に戻るまでを見届けたくて
帰ってからも、ちょくちょく外に出ては
お月さまを見上げた夜でした。
翌日。
同じ橋を渡ると、
雲のない空に十六夜の月。
川面の波光も刃物の鋭利。
冬が来る の ですね。