いむげむ亭 ▼ 時々日記

陶芸家 中島惠のブログです。HP→いむげむ亭日常http://imugemtei.g1.xrea.com/

龍の墨

これは古いです。
 
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母方の祖父が戦前に中国で買い求めた物です。
全体に龍のレリーフが施された「型」で成型されています。
イメージ 2
 
この墨は使えません。硯でおりないのです。
一度『蒸し焼き』になっているからです。
戦時中、東京・五反田に家がありました。
母達は縁故疎開をしておりましたが、
祖父と伯父はその家に残っておりました。
この墨は「東京大空襲がおそらく近い」と知った祖父達が
庭に埋めたものだときいています。

水神である龍の守りを受けたか
燃えず崩れず掘り出され、祖父・父を経て今、私の手にあります。
 
身を削り文字や絵を醸す墨色となって仕事を果たすべく生まれた塊が
10万の命を焼殺した炎をくぐり、生れ変わって
何も書かせない事で語り続ける『塊』へと変容し、存在し続けている、という事実。
 
 
「事実」が美龍を纏って 3月10日の今日 私の掌に乗っています。
 
 
 
美しい龍の墨は、
私をして墨を磨らせずに文を成さしめました。
次の世代に伝えしめ、また100年を生きるのですね。
 
 
 
 
 
付記:ウィキペディアより引用「東京大空襲
 1945年3月10日
    * 死亡:8万3793人
    * 負傷者:4万918人
    * 被災者:100万8005人
    * 被災家屋:26万8358戸
上記の被害数の死者数は、早期に遺体が引き取られた者を含んでおらず、
またそれ以外にも行方不明者が数万人規模で存在する。

頂いたコメント……………………………………………………………

いい墨ですね!使い手として1度は使ってみたい墨です。

水戸

2011/3/10(木) 午前 10:32


TOSHIO様 いらっしゃいませ。

いえ;;
使えないという話、なのです。

どんな発色だったのか、にじみだったのか
香りだったのか すべては炎の中なのでした。

[ いむげむ亭 ]

2011/3/10(木) 午前 10:53


お久しぶりです。
この記事を途中まで読み今日が東京大空襲だったことを思い出しました。
戦火をくぐり抜けた墨なのですね。龍は戦後60余年、何を見てきたのでしょうか?
お祖父様から受け継がれてきたものです。これからも大切にまたお子さんに受け継いでいってください。

[ Yの母 ]

2011/3/10(木) 午後 8:59


Yちゃんママさんおはようございます。
ひどくゆれましたが、お家は大丈夫だったでしょうか?
子供に渡したいんですけれどね・・・
地震の前から震災被害と見まごうような机の周りをみると
墨を渡すのは時期尚早な感が・・・
渡せる日が来るんでしょうか。おかたずけ能力的に。(謎

[ いむげむ亭 ]

2011/3/12(土) 午前 7:00