いむげむ亭 ▼ 時々日記

陶芸家 中島惠のブログです。HP→いむげむ亭日常http://imugemtei.g1.xrea.com/

ボストン美術館展

春休みの始まりの日に、子供と約束しました。
「部活動休みの5日に宿題が終わっていたら東京へ遊びに行こう」

約束直後に頂いたチケットが、この「ボストン美術館展」でした。
私は当然観たい!でも中学生は、どうかなぁ・・・
すると、意外にも「興味あるね。」とのお返事。
(去年、自由研究に「歌舞伎」を選んでいただけの事はあります。)
一緒に出かけることになりました。

9時2分上野着の電車を降り、まっすぐ博物館へ。
すでに20人以上並んでいました。
(開館直前には横断歩道まで列で埋まっている感じでした)

平成館まで行列ですすみ、
会場に入ってエスカレーターを降り、勝手知ったる左手コインロッカー
身軽になって、最初に目指すは
【快慶作・弥勒菩薩立像」】(天心先生素通りごめんなさい)

珍しい、座っていない弥勒さんです。
末世が来たので考える事を終了して立ち上がったご様子でしょうか。
ややひそめられた眉間とまなざしに仕事を果たす決意がよみとれます。
一歩出しかけたような重心とこちらを向く掌に、
衆生に向かって踏み出さんとする気持ちの動きもうかがえます。

これを作る事になった経緯に興味を覚えつつも、
資料で知ればいいことは後回しにして次へ。

巻物の部屋を斜めに奥まで突っ切って
【吉備大臣入唐絵巻】

一番渋滞する作品と予想していたので、先に鑑賞。(正解)
詳細は博物館HPに詳しいのでそこをごらん頂くとして、
この絵巻物は中学生にもわかりやすく楽しい!

吉備真備の話に阿倍仲麻呂
彼が鬼になって・・鬼なのに衣冠束帯して・・空飛んでるw
鬼超能力で何でも解決?ドラえもんですか?!
同じ吉備でも団子の人は鬼退治なのにねー
ウ●コをつついて碁石を探す絵なんか、
今小学校で図工の時間に描いたら怒られちゃうよ。

「超ウケるー」と笑ってみていた中学生が
「あーでも、間の桜がすごくきれいだね」と。

確かに凛とした美しい桜木。
赤い柱の垂直線が作るリズムと、
木や衣装や道具への真面目な描き込みが
人物の瓢げた表情や動作を際立たせているんですね。
こういう作りこみに大真面目で打ち込んじゃう作者さんとは
とっても仲良くなれそうな気がします。

続いて平治物語絵巻】

子供に説明するのに某局大河を引き合いに出し、
玉木宏くん@源義朝が、後白河天皇さらって御所を出る絵だよ。ん?
・・誰だっけ天皇?「三上博?」
「いやそれは鳥羽院」(この中学生は三上ファン)
こそこそ話していると、向こうの方から
松田優作の息子さん」との穏やかなお声。
「ありがとうございます!」と思わずお礼を。
(うるさかったでしょうか、すみません・・周囲の皆様)

炎と武力が実に美しく活き活きとしてます。
制作年代が鎌倉で、まさに時代の花は武士、
今目の前に咲く花を描いた作品ならではの強さです。
登場人物を一人一人ずーっと見ていたい・・
後ろ髪を引かれつつも、次へ。

山水は中学生が持たないので並足通過。
【蓮図】はあとでじっくり・・と心にメモして前進。

呼び物の龍のうち、まず等伯竜虎屏風】へ。
トラの縞!あの線!
先生!どうしたらあんなふうに決められるんでしょう(泣)
龍も虎も「ムフフン、勝負を楽しんで居るんだぜ」といった表情。
両者、気持ちに余裕があります。
先生!どうしたらあんなふうに(以下略)

次に光琳【松島】
様式的な表現、構成で、整然と収まった美術品のフリをしていながら、
うっかり見入ると、ガガッと引き込んできます。
にごった水が頭上で膨れ上がり、目前に砕け散り
時空を超えてずぶ濡れになりました。

動画や3Dまで技法をいくら手に入れても、
才能の静止画一枚に及ばない事ゾクゾクします。
これはテレビや図録では絶対に伝わってこない凄さです。
いや、来てよかった!!

若冲は【羅漢図】でしたが・・
なんか分業したみたいなバランスが変な感じ。
【オウム】も・・白で描いた技法は素敵なんですが
なんか剥製みたいで・・並足通過。

そして蕭白の部屋へ。

【 雲 竜 図 】

圧巻・・です。
部屋の中央に椅子が置かれ、
離れた距離から全体をゆっくり見ることが出来ました。

混んで来ると我先前にと人が立ち、
しまいにガラスに張り付いて列をなし、
せっかくの大きな絵を、引いて見る事が出来なくなります。
早めの到着が大正解でした。

並んで腰をかけた子供がこそこそ話しかけてきました。
「ねえ、お母さん、襖がこの龍って、この部屋で何するん?」
「寝たらうなされそうだよね」
「ご飯食べるよりこっちが食われる。」
「受験勉強?それなら進むかも」(家の襖に描くか?!)
「これ、真ん中がないみたい。(←正解。胴体が4面あるはず)」
「部屋の全方向をぐるっと取り巻いてたのかな。一面長く龍の部屋なのかな」
「夜中にトイレに起きて、この絵が暗闇に浮かんで見えたら
きっと座り込んじゃうね」

ここ2年程、反抗期でダンマリやウンザリ会話が多かったのに・・
肩並べ、同じ作品世界に遊び交わす会話。
龍とは別に「胸に迫る鑑賞(感傷?)事項」があったんですが
うっかり口にすれば「やだーきも!うざ!なにそれ!」でしょうから
ウン、ウン、そうだよね、と返事だけを繰り返していました。

龍に満足した後、
図録の巻物画像がよかったので(混む前に)買い、
再度会場へ・・一回目に通過した作品を観ました。
法華堂根本曼荼羅と復元図、
馬頭観音普賢菩薩・・
刀と装飾関係 (子供はこういう光物が好き)
さっきの蓮図
ジャコウネコに、リス、
朝比奈首引屏風、などなど
(曽我兄弟系の歌舞伎は子供のお気に入り)

が良すぎたのでしょう、昼頃の来場者はさほどでなく
目玉以外の作品はストレスなく楽しむ事が出来ました。

裏の庭園で持参した栄養補給後
常設をちょっと観るだけのつもりが
二人ともつい楽しくてアレもこれも。

とうとう中学生が燃料切れとなり、博物館を後にしました。